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僕はうんこというものをしたことがありません。それどころか、うんこというものの存在自体を小学校を卒業するくらいまで知りませんでした。
いや、「うんこ」という名前くらいは聞いたコトがあったのですが、それがなんなのか、どういうものなのかというコトを知らなかったのです。なので、当時大好きだったドリフのコントでもうんこが出て来るものだけはよく分からず、周りに合わせてなんとなく笑っていました。それが当時の僕にとっては当たり前のようになっていました。
しかし、中学に入る頃、ようやく「自分は周りの人間とは違うのではないか?」と思い始め、同時に「自分は実は妖精なのではないか?」という疑念を抱くに至ったのです。
事実、確かに僕の背中には羽らしきものがありましたし、その羽らしきものを思い切り広げ羽ばたけば、空を飛べるような気がしていました。
しかし、それをしなかったのは当時の僕は自分の裸に非常なコンプレックスを抱いていたからです。今思うとそれは単なる思春期の過剰な自意識故のモノだと思うのですが、当時の僕にとって自分の裸を見られると言うコトは死に値する程の恐怖でした。理由も原因も今となってはわかりません。いや、正確に言うと覚えていません。ただ、事実としてそこにそれは厳然と存在していたのです。
結局、「自分は実は妖精なのではないか?」という疑念は深まるばかりでしたが、確認する術が無いというジレンマが中学時代の僕に暗い影を落しました。すっかり塞ぎ込んでしまい、周りと違う自分が周りとどう接して行って良いのか、どう生きて行けば良いのか、周りと違うコトを周りの人達が知ったら僕はどう思われるのか、僕はどうなってしまうのか、そんなコトばかりを考えて過ごす毎日でした。
そんなある日、いつものように、ホントにいつものように何も変わらない毎日の中の、ふとした瞬間に何の前触れもなくそれは唐突に訪れました。
…僕の中から何かが、何かが、来る!
ぶり、
ぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりーーー!
それは空をも突かんばかりのうずたかく巨大なうんこでした。
その時、既にもう14年も生きてきた僕には、それがうんこだというコトがひと目でわかりました。
そして僕は、遂に対面を果たした自分のうんことしばらく対峙したまま動くコトも出来ずに感動に打ち震えていました。しかし、その感動が堰を切って溢れ出すのは意外にも早かったように覚えています。
「ぼ、僕にも、僕にも出来た! うんこが、うんこが出来たよ!」
そう叫びながら、また、それに奇声を交えながら、今ひねり出したばかりの自分のうんこを両手に握りしめ、僕は走り出しました。そのまま町内をひとしきり駆け巡ったトコロまでは覚えていますが、それ以降は何があったのか何故か記憶にありません。
ただ、僕は妖精ではなく人となんら変わらない、ただの人間なのだと、心も体も足の指先から髪の毛の先まで、その実感と喜びに満ち溢れていました。あぁ、世界はこんなにも喜びに満ち溢れている。あぁ、世界はなんて素晴らしい。
結局何一つも解決しないままだったけど、現実とはきっとそういうモノなのだ。明確な答えなんて現実に求めるだけ無駄なのだと。喜びから覚め、しばらく経った頃から僕は世界をそういう目で眺めるようになっていました。
そう、僕はうんこというものをしたことがありません。ただの一度しか。
でも、確かに僕の背中には今でも羽があるのです。
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