廃人の朝
AM 7:25

 「あ、あたい、日記が、日記が書きたいのーーーーー!!」

 目覚まし代わりの携帯のアラームが鳴る5分前、テキストサイト管理人歴4年と8ヶ月のヨシ美はそんな絶叫とともに目を覚ました。 

“目を覚ましてまず最初にやるコトはPCの電源を入れるコト”

 そんなネットにどっぷり浸かった中毒とも言えるような日々はもう、5年になるが、今日はいつにも増して、PCの起動の時間をも惜しい程に早く、早くコンピュータと戯れたかった。
 そう、先ほど夢とうつつの狭間で発した言葉の通り、確かに今、彼女は日記を書きたかったのだ。

 テキストサイト−−−−−「ファニーゲーマーズヘブン」「侍魂」「ろじっくぱらだいす」などなど、その界隈に有名なサイトは多々あれど、ヨシ美のサイト「新しいキノコ」は月2,000HIT程度のいわば中小サイトだった。「いつかは私も大手に!」という夢はサイト開設から2年経った頃に諦めた。自分の文才の微妙さに気付いたのだ。

ヨシ美にはそれなりの文章力はあったのだが、いわゆる万人受けするようなモノは書けなかったのだ。いや、正確に言えば決して書けない訳ではなかったのだが、ある意味でヨシ美は「テキストサイト管理人」というキャラクターに徹しきれなかったのだ。ヨシ美はそんな自分を理解し、飲み込んで、そして諦めた。諦めた、が、自分が書いた日記に反応を貰ったり、掲示板に書き込みがあるのは、それが例えただの世間話だとしても嬉しかった。なにより見知らぬ人と気軽にコミュニケート出来るネットが、サイト運営が楽しかった。

 「何も大手を目指すコトだけがサイト運営じゃない」「わかる人だけがわかってくれればそれで良い」と、そんな風に言葉にするとなんだか負け惜しみのようにも聞こえるかもしれないが、事実ヨシ美はそんな中途半端なポジションに多少不本意ながらも居心地の良さを感じていた。

 そんな訳でずるずると、しかし「せめて自分が納得する日記を」とそれなりのこだわりを持って4年と8ヶ月もサイト管理人を続けていたヨシ美なのだが、さすがにそれだけ長く続けていると、日記に書くネタも無くなり、ここ半年はせいぜい月3・4回の更新と、お知らせ的な更新でお茶を濁す日々だった。

 しかし、ヨシ美には今日こそは書けるという確信があった。それも今まで自分が書いたどの日記よりも面白い、過去に唯一好評だった自サイトの日記「素股と私」をも軽く凌駕する程の、最高の日記が。

 起動画面が消え、PCのモニタにはヨシ美のキャラとは多少かけ離れた白背景にピンクの文字で「Peace!」と書かれた自作の壁紙が現れる。目が覚めた瞬間ではなく、この画面を朝イチで眺める時がヨシ美の"一日の本当の始まり"であり安堵に似た感覚を味わう瞬間なのだが、今日に限ってはその感覚も無い。

 テキストエディタを立ち上げ「さぁ、書くぞ」と思った瞬間、今更になって目覚まし代わりの携帯のアラームが鳴り出した。ヨシ美は朝が弱い為(というより毎晩遅くまでネットをやってる為)、少しうるさいくらいの音を目覚ましに設定しているのだが、今のヨシ美にはそれは「日記」という名の「自分との果たし合い」のスタートを告げるホイッスルのように聴こえていた。いつもより少しだけ遅い今こそが"今日の本当の始まり"だ。ヨシ美の確信は更に深まっていた。書ける、今なら書ける、私なら出来る。今までの自分を、完膚なきまでに−−−−−−



4/29 りぼんちゃん

 チクビ、キューーーー!(挨拶)ってコトで「新しいキノコ」のヨシ美さんですどうもこんにちわ(乳首から緑色の液体を放ちながら)。今日も私の背中に出来た突起物はいつものように元気にグイングインと動いています! ううん、言っちゃうと今日はいつも以上にグイングインと動いています!あらんばかりに動いています! グイングイイイイインです! コココココウィーーーンです!モゴゴゴゴゴだったかもしんない。知らない。どうでも良い。お前らホントどうでも良い。ううん、ホントは好き。あなた達のコトが、ヨシ美だぁーーーい好き! だいだいだぁーーーーい好きゅーーん! 好きゅーーん! ぎゅぎゅーーん! グイングイイイイン! ブルブルブル…! ボンッ!(飛び散る脳漿)あ、流れ星っ!ミ☆「犬!」「犬!」「犬!」 よーっし!ちゃんと3回言えた! エラいぞヨシ美☆ やだ、嬉しくって私なんだか濡れて来ちゃった…。って思ったら生理ーーーーッ!! みたいなー! お腹痛ーいッ! みたいなー! 実は下痢ーーーッ!!こしゃくなー! えーい! 勝負はこれからDA!ブリブリブリブリーーーッ!! はッ! け、血便…!?
 そんな訳で今日私は背中の突起物に「りぼんちゃん」という名前を付けました。愛しい私のりぼんちゃん…(りぼんちゃんから放たれる黄色の液体)(酸性)。



 …よしっ!(ヨシ美、満ち足りた表情)
【2005/04/28 12:02 】
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この夏あの夏
夏っぽさはラジオから聴こえる音楽と、この茹だるような暑さだけ。あとはせいぜい着るものが変わるくらいで、夏っつってもたいして何も変わらない。気が付くと忘れてる。そんな他人事みたいな夏は過ぎて行く。

決まってこの時期思い出すのはあの頃の夏の出来事。高い青い空と緑の向こうにそびえる白い雲。庭に水をまいた後、皆で縁側でスイカを食べた。庭に飛ばしたスイカの種が芽を出して庭中埋め尽くすのを、夏休みが終わっても僕はずっと待っていた。懐かしい朝の匂い。セミの声。澄んだ水。カブトムシ。夕暮れの風。浴衣。うちわ。網戸。花火。回る扇風機。風鈴の音。祭りのあとを知った夜。

この夏の日の中に僕は、あの夏の日を探したりして、どこかにないかと探したりして、だけど、あの場所で過ごした時間は、確かに今の僕に繋がっている。
この街に着いた日は真夜中眠れずにテレビを付けた。何を見たのか覚えてないけど、なんか少し泣きそうだったのを僕は今も覚えてる。

夏っぽさはラジオから聴こえる音楽と、この茹だるような暑さだけ。あとはせいぜい着るものが変わるくらいで、夏っつってもたいして何も変わらない。気が付くと忘れてる。そんな他人事みたいな夏が、ただ、過ぎて行く。
【2004/07/21 11:58 】
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戯画
君のスリムでコンパクトなボディの拡張されたスロットに、僕のデバイスを挿入する。次世代のマルチメディア。僕のタワー型の匡体と、君のドライブにデュアルブートのオペレーティングシステム。旧式の空冷ヒートシンクではもはや追い付かないくらい熱を持ったボディ。ほどけないFire wireと君の正確なブラインドタッチ。モバイル機器のマナーモードの振動と連動するように空回るファンの低いノイズ。既にぱっつんぱっつんのドライブにプリインストールのアプリは捨ててしまおう。しかしそれでもなお足りない。外付けHD、フォーマットはNTFS形式。やがて君のCPUは、僕の新しいオプティカルなデバイスを認識しはじめ、快適で全く新しいデスクトップ環境を手に入れる。笑う青い歯。そして僕も…、あぁ〜! で、DELL!(ごめんなさい)
【2004/07/08 11:56 】
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インスパイア
僕はいつもそう思う。
毎朝の道程、あの角を曲がる時、僕はいつも君の姿を思い出す。いつからだろう、何がきっかけだったのだろう、今はもう思い出せない。だけど、ただ、雨の日も風の日も晴れの日もいつも、あの角は僕の中の君に繋がっている。もう戻れない、共に過ごした遠い日々。卒業して以来ずっと会ってないから僕の中の君は、今も制服で笑ってる。今どこで何をしているのか、僕には知る由もない、君、あだ名は、そう、「大 仏子」…って、そっか、この角「縮毛矯正」の看板があるからか! それでか! それで思い出すのか! そっかー!

僕はいつもそう思う。で、すぐ忘れる。
【2004/05/12 11:56 】
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彼女は今日も僕に笑ってくれた。
僕の前を通り過ぎていった電車が残した風でまた、桜の花びらが散っていく。日曜の昼の貨物列車は荷物も少なく、大学のあるこの道沿いには学生達の声もしない。電車が遠くに消えた後、もとどおり静かな日曜の時間はゆっくりと流れ、うつろうように宛てもなく僕が見上げる空、を映す川面、に流れる雲、と水。桜の季節は過ぎていき、地面に散った花びらが鳥の羽ばたきに舞い上がる。短い夢の終わりを思う午後、僕はもう、誰の心にもいない。
戻る音。羽音と喧噪、踏み切りの音、暮れる日、舞う花びら。
彼女は今日も僕に笑ってくれた。

…そんな話を僕は、仕事帰りまっすぐ家に帰らずに向かう個室ビデオへの道中で考えていた。我に帰って愕然とした、そんな春の夜だった。
【2004/04/28 11:54 】
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